D&D4版に於いて、適正なバランスの戦闘を作る際に僕が気に掛けている事を纏めます。
まず1つ重要な前提ですが4版では、パーティ内に異なるレベルのPCが存在する状況を想定していません。この前提の元に話しを進めます。
●モンスタの分類
4版のモンスタには、PCと同様にレベルと役割があります。PCの役割(撃破役、指揮役、制御役、防衛役)と違いモンスタの役割には主要役割[Main Role]と特別役割[Specialty Role]という2つの副種別があります。
主要役割はPCの役割と似ています。暴れ役、砲撃役、兵士役、遊撃役、奇襲役、制御役の6つです。
特別役割は、標準、精鋭、単体、雑魚の4つです。同じレベルであっても、単体モンスタは標準モンスタの5倍、精鋭モンスタは2倍、雑魚モンスタは4分の1の経験点を持ちます。例えば1レベルのモンスタであれば、単体は500点、精鋭は200点、標準は100点、雑魚は25点の経験点です。
表1. モンスタの特別役割毎の経験点 一部抜粋モンスタ レベル | 標準 | 精鋭 | 単体 | 雑魚 |
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1 | 100 | 200 | 500 | 25 |
2 | 125 | 250 | 625 | 31 |
3 | 150 | 300 | 750 | 38 |
4 | 175 | 350 | 875 | 44 |
5 | 200 | 400 | 1000 | 50 |
6 | 250 | 500 | 1250 | 63 |
7 | 300 | 600 | 1500 | 75 |
8 | 350 | 700 | 1750 | 88 |
9 | 400 | 800 | 2000 | 100 |
10 | 500 | 1000 | 2500 | 125 |
*完全な表は日本語版DMG56頁参照。●遭遇とは
DMG等では、8から10回の遭遇でパーティ全員が1レベル上がる様に一連の遭遇を設計すべしと言っています。またXレベルのPC1人が1レベル上がる為にはXレベルの標準モンスタ10体を倒しただけの経験点が必要です。つまりXレベル6人のパーティであればXレベルの標準モンスタ60体を倒しただけの経験点が溜れば全員が1レベル上昇する訳です。従って、平均的には10回の遭遇のそれぞれでXレベルのモンスタ6体分の経験点を出せば良いという事になります。
また1レベル上がるまでの約10回の遭遇の中には、戦闘遭遇以外に技能チャレンジや最低1つの主要クエストを入れると良いでしょう。ゲーム的には主要クエストは1つの戦闘遭遇と同等の価値を持ち、副次クエストは標準的なモンスタ1体と同じ価値を持つとされています。
- 1レベル上昇 = 約10遭遇
- 1遭遇 = 1戦闘 = 1技能チャレンジ = 1つの主要クエスト
- 1体の標準モンスタ = 1つの副次クエスト
遭遇には遭遇レベルという物があります。遭遇レベルはPCパーティの人数と含有する経験値の合計で決定されます。遭遇レベルXの遭遇にはPCパーティ人数と同数のXレベルの標準モンスタ分の経験点を含有します(例えば6人パーティで7レベルのモンスタ6体の遭遇だと遭遇レベルは7になる)。
表2. 遭遇レベル毎の含有経験点 一部抜粋遭遇 レベル | 4人 パーティ | 5人 パーティ | 6人 パーティ |
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1 | 400 | 500 | 600 |
2 | 500 | 625 | 750 |
3 | 600 | 750 | 900 |
4 | 700 | 875 | 1050 |
5 | 800 | 1000 | 1200 |
6 | 1000 | 1250 | 1500 |
7 | 1200 | 1500 | 1800 |
8 | 1400 | 1750 | 2100 |
9 | 1600 | 2000 | 2400 |
10 | 2000 | 2500 | 3000 |
*完全な表は日本語版DMG56頁参照。 例えば、5レベルの精鋭モンスタ1体(400経験点)、3レベルの標準モンスタ2体(150経験点×2)、1レベルの雑魚モンスタ2体(25経験点×2)の合計750経験点の遭遇は、5人パーティにとっては遭遇レベル3ですが6人パーティにとっては遭遇レベルは2という事になります。
遭遇レベルは3つの難易度に分けられています。
表3. 遭遇の難易度難易度 | 遭遇レベル |
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簡単な遭遇 | PCレベル-2 |
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PCレベル-1 |
標準的な遭遇 | PCレベル±0 |
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PCレベル+1 |
困難な遭遇 | PCレベル+2 |
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PCレベル+3 |
PCレベル+4 |
従ってPCは「標準的な遭遇」を10回こなすと1レベル上昇する事になります。「困難な遭遇」の割合が増えれば1レベル上昇するまでにこなす遭遇の数は減りますし、逆に「簡単な遭遇」が増えれば1レベル上昇するまでにこなす遭遇の数は増えます。
こうした遭遇の定義を理解した上で、個々の戦闘遭遇の作り方を考えていきます。最初に決める事はその戦闘の難易度を簡単・標準・困難のどれにするかです。例えばボス戦の様な困難な戦闘だとします。思い切ってPCレベル+4レベルの遭遇だとしましょう。
ここで非常に重要なルールがあります。例え「困難な遭遇」であってもPCのレベルよりも6レベル以上高いレベルのモンスタは出してはいけないという事です。これはDungeon Master's Kit内のDungeon Master's Bookの188頁に『Hard encounters are two to four levels above the party, and can include monsters that are up to five levels above the characters』と明記されています。
●モンスタとPCの能力の比較
次に個々のモンスタが平均的にどの程度の能力を持つかを考えます。命中判定値と防御値は以下の様な値に設定されています。
表4. モンスタの役割毎の性能 | | 奇襲役 | 暴れ役 | 兵士役 | 遊撃役 | 制御役 | 砲撃役 |
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防御値 | AC | レベル +14 | レベル +12 | レベル +16 | レベル +14 | レベル +14 | レベル +12 |
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その他の 防御値 | レベル +12 | レベル +12 | レベル +12 | レベル +12 | レベル +12 | レベル +12 |
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命中 判定値 | ACに対する攻撃 | レベル +5 | レベル +5 | レベル +5 | レベル +5 | レベル +5 | レベル +5* |
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他の防御値 に対する攻撃 | レベル +3 | レベル +3 | レベル +5 | レベル +3 | レベル +3 | レベル +3* |
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* 完全な表は日本語版DMG184ページ参照。但しこの表にはアップデートがかかっている事に注意(ホビージャパンのアップデート掲載ページ)。 これらは平均的な値なので当然モンスタにより数値にばらつきはあります。
一方PCの命中判定値はレベルに比例して線型に上昇していく訳ではないので、ざっと計算してみる必要があります。例えば6レベルPCなら
- 武器による攻撃 = 3(レベルの半分) + 5(能力値修正) + 3(武器の習熟ボーナス) + 1(練達系特技) + 2(魔法の武器のエンハンスメントボーナス) = +14
- 装具による攻撃 = 3(レベルの半分) + 5(能力値修正) + 1(練達系特技) + 2(魔法の武器のエンハンスメントボーナス) = +11
程度が限界でしょう。PCと同レベルの6レベルモンスタの防御値は
前後なので武器パワーでACに攻撃する場合は75%、装具パワーでAC以外に攻撃する場合は70%の命中確率という事になります。
PC側の防御値ですが頑健・反応・意志はかなりばらつきが大いので一概には言えません。ACについてはプレートアーマーとヘヴィシールドの場合の値をざっと計算しておくと良いでしょう。6レベルであれば
- AC = 10 + 3(レベルの半分) + 8(鎧) + 2(盾) + 2(鎧のエンハンスメントボーナス) + 1(マスターワークの鎧) = 26
が限界でしょうか。同レベルのローグ(レザーアーマーで盾無し)であればAC21程度なので、かなり差がありますね。
モンスタの一撃当たりのダメージは
- 単体攻撃: モンスタレベル + 7
- 範囲攻撃: モンスタレベル + 5
* 暴れ役であれば+25%
* 再チャージパワーや遭遇毎パワーであれば+25%/+50%
程度です。
* モンスタレベル毎の平均的なダメージについては、日本語版DMGの184頁参照。但しこの表にはアップデートがかかっている事に注意(ホビージャパンのアップデート掲載ページ)。
●高レベルモンスタとPCの能力の比較
仮にボスを6レベルPCよりも4レベル高い10レベルの「精鋭」モンスタにしましょう。ボスの防御値は以下の様に想定されます。
従ってPCが武器パワーでACに攻撃する場合は55%、装具パワーでAC以外に攻撃する場合は50%の命中確率という事になります。しかし先に延べたPCの命中判定値は殆ど最大限に命中を上げる様に作ったPCを想定しています。実際は前述の値よりも1か2落ちても不思議ではありません。その場合命中確率は対ACが45%、AC以外が40%まで落ち込みます。戦術的優位があっても命中確率は五分という事です。
6レベルPCであれば、撃破役の無限回パワーが一撃20点、それ以外は12点程度でしょう。10レベル標準モンスタのHPは100点を少し上回る位、精鋭であればその倍なのでPCが全体で20数回無限回パワーで攻撃を行なえば倒せる勘定になります。当然、遭遇毎パワーや一日毎パワーを使えば倒すのに必要な攻撃回数は減少します。
最初のラウンドからPC6人全員がボスのみを毎ラウンド攻撃し続ければ、3、4ラウンドでボスは倒れる事になるでしょう。此我の距離が遠くPCが接敵するまでに多少時間が掛かったり、機会攻撃を誘発せずに移動する能力をボスが持っていたりすればより長い間立っている事ができます。
重要な事ですが、モンスタの役割の内「兵士役」のものは他の役割のモンスタよりもACが2高く設定されています。もしこのボスが兵士役であればPCの命中確率は戦術的優位があって4割を下回り、そうでなければ3割まで落ち込みます。高いレベルの兵士役はPCの攻撃が命中せず状況が膠着し長いラウンド戦う戦闘になります。4版の性質上、戦闘が長びく程PCに不利になり、その相手が格上となれば全滅の危険性は高まります。高いレベルの兵士役を出す場合は要注意です。
10レベルモンスタの一撃当たりのダメージは単体攻撃で17点、範囲攻撃で15点平均です。精鋭モンスタは標準モンスタよりも一撃当たりのダメージが大きいか攻撃回数が多いかどちらかの特徴があります。
6レベルPCのヒットポイントは50から70点程度なので、ボスの攻撃が4回当たると倒れる事になります。ボスの攻撃はPCの防衛役に対しては5割、それ以外に対しては7割を超える命中確率になります。攻撃回数が多い型の精鋭だと倒れるまでに10回以上攻撃をしてくるでしょうから、とことん防衛役以外を狙えば2人くらいはdyingになる可能性があります。
また重要な点なのですがDMG2が発売されるよりも前に設計された単体・精鋭モンスタ(MMやMM2等が主体)は同レベルの標準モンスタと比べて防御値全体が2程度高く設定されています。DMG2ではこれが改められ単体・精鋭も標準モンスタと同程度の防御値に下がりました。もし利用しようとしている単体・精鋭のモンスタがDMG2以前の基準の防御値を持つようであれば、DMG2以後の基準に合わせる様にした方が安全です。特に兵士役のACに関しては改訂が必須と言えるでしょう。DMG2以前の基準では10レベル精鋭・兵士役のACは28もあるのです。これに対する6レベルの命中確率は2割近くまで減少します。
以上の様な事から、DMは可能であれば事前に各PCの命中判定値や防御値を調べて、自分が出そうとしているモンスタ(特にPCに取って危険な相手になる筈のボス等格上のモンスタ)の命中判定値や防御値と比較して、数値を元に戦闘の危険度を試算してみると良いでしょう。特に注意するべき点は
- 高いレベルの兵士役[Soldier]のAC
- 精鋭[Elite]・単独[Solo]の防御値がDMG2以前の基準かどうか
- 非実体[Insubstantial]や群体[Swarm]と言った特殊な防御能力を持つモンスタ
- 朦朧[Stun]や幻惑[Daze]、支配状態[Dominate]と言ったロック能力を持つモンスタ
という様にPC側に手詰りが発生し易いモンスタの能力です。
取り敢えず力尽きたのでここまで……。