チェスタトンによるブラウン神父譚の4冊目です。プラウン神父譚がトリックの宝庫だ、というのは有名な話ですが、その実我々がトリックだと思っているものは、チェスタトンによって仕掛けられたレトリックの陥穽に他なりません。
私達はチェスタトンが巧みに用意した構成の罠に嵌っているのです。ブラウン神父譚の多くは30ページ前後ですが、この短い物語の中に多数の登場人物が次から次へと、入れ替わり立ち替わりやってきては、あれやこれやと発言します。そして気が付くと物語は終盤にやってきていて、読者は状況すら把握できないままブラウン神父の解決を聴く事になるのです。そういう目で見ると、改行や改段の少ないチェスタトンの文章というのは計算されたものなのではないかと思えてきます。
初読の時は混乱させられた文章も、ブラウン神父の解説を聞いた後に再読するとスンナリ理解できてしまうのですから、それぞれの短編が如何に凝縮されているかが分かります。
本書ではブラウン神父の探偵法が明かされています。それは「犯人になりきったつもりで考える」という事なのですが、これも信者の気持を斟酌する事が得意な神父ならではと言えます。
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