「青ひげ」というのはフランスに伝わる民話です。その民話は次々と妻を殺した恐ろしい殺人貴族(王様)の話なのですが、本書『青ひげの花嫁』も、それをモチーフにしています。
遺産目当てで次々と結婚しては妻を殺し、死体も残さずに消え失せる連続殺人犯。なんと犯人は11年の長きに渡って警察の手から逃れ続けています。更にこの青ひげは、密室から死体が消失するという謎を残しているのです。そしてマスターズ警部に懇願されて、押っ取り刀で登場したのが、我らがヘンリィ・メリヴェール卿です。
犯人が最後に残した死体喪失のトリックは、わりと簡単で鋭い人ならば直ぐに気が付くでしょう。そういう点もあり、本書はカーには珍しくハウダニットよりもフーダニットの趣向が強い作品だと言えます。
カー(H・M卿が、かもしれませんが)は周到にもフーダニットを意識して、幾つかのミスディレクションを用意しています。登場人物達はその陥穽に落ちてしまうので、それを読んでいる私達読者も、余程気を付けないと作者の罠に嵌ってしまうでしょう。
大きなトリックこそ無いものの、小さいながらも鋭いレトリックが冴える作品です。
青ひげ(Web同人誌Folioの記事)
0 件のコメント:
コメントを投稿