2004年8月30日月曜日

【今日の読書】騎士の盃/カーター・ディクスン/早川ミステリ文庫

 ヘンリィ・メリヴェール卿が活躍するシリーズの最後を飾る長編です。今回も密室モノなのですが、トリックが問題になるハウダニットではなく、むしろ犯人の動機が問題になるホワイダニットの趣向が強い作品です。カーにしては珍しいと言えるでしょう。

 犯人によって提出される謎が、なんとも不思議なのです。つまり「密室にある鍵のかかった金庫から、騎士の盃が出されていた。何故犯人は盃を移動しただけで盗まなかったのか」という謎です。盃は値千金のお宝なのに、犯人は苦労して密室に出入りしたのに、何故こんな事をしたのでしょうか。この動機に関する謎が本書の大きな魅力になっています。

 やかまし屋のレストレイドならぬマスターズ警部が今回は色々と活躍するのも見所でしょうか。何せH・Mに先駆けて事件の真相に気付いてしまうのです。しかし活躍する以上に酷い目に会うのは御愛嬌ですね。また、推理小説には珍しく、怪我人は出るものの死者が1人も発生しないのも特徴でしょう。

 作者十八番の密室状況を風刺しながら二転三転するドタバタミステリは、往年のカーならではの作品だと言えます。


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