死せる詩人のWeblogです。読書記録とDungeons and Dragons Role Playing Gameのセッション記録が主です。リンクは御自由にどうぞ。
2025年5月22日木曜日
Vexius Nightshade:ジェライントの長兄の物語
# 夜の影の吟遊詩人
ティロニアン半島の凍てつく風の中、ジェレイントは時折、温かい記憶に心を寄せた。その中でも特に鮮明なのは、長兄ヴェクシウス・ナイトシェイドの姿だった。
ヴェクシウスはジェレイントより5歳年上で、スカーレット・ブラザーフッドの中でも珍しい道を選んだ人物だった。彼は魔法や戦闘の道ではなく、音楽と知識の道を歩み、吟遊詩人となった。しかし、彼の選んだ道は決して平凡なものではなかった。
ヴェクシウスは中背で痩せ型、常に黒と深紅の衣装を好み、長い黒髪を後ろで結んでいた。彼の指は細長く、リュートやハープの弦を驚くほど巧みに操った。しかし、彼の最大の武器は声だった。彼が歌い始めると、聴衆は彼の言葉に魅了され、時に文字通り彼の魔法的な影響下に置かれた。
「言葉には力がある、弟よ」ヴェクシウスはよくジェレイントに語っていた。「呪文の言葉も、詩の言葉も、本質は同じだ。どちらも現実を形作る力を持っている。」
ヴェクシウスは中立にして邪悪な道徳観を持っていたが、それは残忍さからではなく、むしろ冷徹な実用主義から来ていた。彼は個人の自由と知識の追求を何よりも重んじ、それを妨げるものには容赦なかった。しかし、彼は家族、特に弟妹たちには驚くほど優しく、保護的だった。
学者としてのヴェクシウスは、古代の歴史と失われた文明に関する膨大な知識を持っていた。彼はスカーレット・ブラザーフッドの図書館で多くの時間を過ごし、禁断の知識を含む古代の書物を研究していた。特に彼が興味を持っていたのは、失われた魔法のアイテムと古代の儀式に関する情報だった。
幼いジェレイントにとって、ヴェクシウスは憧れの存在だった。兄は彼の魔法への興味を理解し、時には禁じられた魔法書を密かに彼に貸してくれた。「知識自体に罪はない」と彼は言った。「それをどう使うかが問題だ。」
ヴェクシウスは、ジェレイントが他の子供たちから孤立していることを心配していた。彼自身も子供時代は孤独だったが、音楽と知識の中に慰めを見出していた。彼はジェレイントに読書と瞑想の価値を教え、「孤独は弱さではなく、内なる力を育む機会だ」と諭した。
ジェレイントが10歳の時、ヴェクシウスは彼に古い竪琴を贈った。「すべての魔術師は音楽を理解すべきだ」と彼は言った。「宇宙の調和を感じるためにね。」ジェレイントはその楽器を大切にし、兄から教わった古代の歌を練習した。それらの歌の中には、「浅緋の式服」と「純血の錫杖」についての暗号化された情報が含まれていることを、彼は後になって理解することになる。
ヴェクシウスは18歳でスカーレット・ブラザーフッドを離れ、フラナエス中を旅する吟遊詩人となった。彼は定期的に帰郷し、旅で集めた物語や知識を家族と共有した。彼の話の中には、北方の地ティロニアン半島についての言及も多くあった。彼はその地の厳しい美しさと古代の秘密について語り、若いジェレイントの想像力を刺激した。
「ティロニアン半島には古い力が眠っている」とヴェクシウスは言った。「氷の下には、我々の理解を超えた古代の文明の遺跡がある。そして、その遺跡の中には、我々の家族に関わる秘密も隠されているんだ。」
ジェレイントが家を出る決意をした時、ヴェクシウスは既に数年間旅に出ていた。しかし、彼は弟の旅立ちの知らせを聞いて一時的に戻ってきた。彼はジェレイントに古い地図と、彼自身が作った歌の書を贈った。
「この歌の中に、お前が探しているものへの手がかりがある」と彼は言った。「しかし、それを理解するには時間がかかるだろう。歌は時に直接的な言葉よりも真実を伝えることがある。」
ヴェクシウスはまた、ジェレイントに警告した。「北の地は危険だ。そして、お前が探しているものは、多くの者が欲しがっている。気をつけろ、弟よ。すべての味方が友人とは限らないし、すべての敵が敵とは限らない。」
その後、ヴェクシウスは再び旅に出た。彼の行き先は不明だったが、彼もまた「浅緋の式服」と「純血の錫杖」に関する自分自身の探求を続けているという噂があった。
ティロニアン半島の旅の中で、ジェレイントは時々、兄から贈られた歌の書を開き、その謎めいた歌詞を解読しようとした。そして、ある凍てつく夜、彼は遠くから聞こえるリュートの音色に気づいた。それは彼の知っている古い歌だった。ヴェクシウスも同じ探求の旅の中で、どこかで彼を見守っているのかもしれなかった。
長兄ヴェクシウス・ナイトシェイドは、ジェレイントにとって複雑な存在だった。彼は導き手であり、保護者であり、時には謎そのものだった。彼の真の目的と忠誠心は、氷と雪の向こうに隠された謎の一部だった。
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿